次の間という部屋は、それ自体を部屋として活用することはまれで、座敷をもっと広く使う必要があるときに、次の間との間仕切りのふすまや障子を取りはらい、ひと間としたのである。
荘子の言葉に「人みな有用の用を知りて無用の用を知るなし」というのがあるが、次の間という部屋は無用の用を知った人間がつくりだしたのかもしれない。
このように、日本の伝統的住まいは、間仕切りを取りはらうことによって、広い空間をつくりだし、パーティーやセレモニーを開くことができ、屏風や衝立で広い部屋を狭く使うしつらえもできた。
その自由自在の部屋は、同時に家族会員がくつろげる場所でもあった。
日本の住まいの伝統を再評価することが必要ではなかろうか。
日本は雨の多い気候風土が特徴なので、住まいも、これをまず第一に考えておかなければならない。
わが国の年間降雨量は、東京が約1500ミリ、太平洋岸の静岡で2355ミリ、日本海側の金沢が2662ミリ、新潟県の高田が3038ミリ、太平洋岸の尾鷲ではなんと4158ミリも降っている。
いっぽう外国の例をみてみよう。
英国紳士とこうもり傘は有名ではないか、といわれるだろうが、雨量がちがう。
ロンドン、パリ、それにモスクワや北京など、みな1年間の雨量が500ミリ台である。
洋の東西を問わず文明国では雨が少ないらしい。
気候風土がそこに住んでいる人びとの生活に及ぼす影響は、考える以上に大きい。
西洋と日本の雨量がまったくちがうのに、欧米の風土に合わせてつくられた西洋館をそのまま建ててもダメ。
たとえば、最近の新進気鋭の建築家が設計した住宅は、西洋式に軒、庇がなくて屋根が平らだから必ず雨が漏る。
その雨も、とくに名古屋以東の雨は縦に降らずにななめに降る。
広重の浮世絵「東海道五十三次」などを見ても、だいたい右上から左下へ降っている。
京都あたりへ行くとわりあい静かで、雨は縦に降る。
私は子どものころ、京都で育ったのだが、そこでは蛇の目や番傘が使われていた。
ところが東京へ来るとみんなこうもり傘をさしているので、東京のほうがやはり文明化されているのだと思った。
しかし、実は、京都は横なぐりの風がないので蛇の目や番傘で十分なのに、東京はこうもり傘をささなければならないくらい強い横向きの雨が降るというわけだったのである。
壁というものは、軒が出ていればあまりぬれないが、ないとじかに雨が吹きつける。
要するに縦になった屋根と思えばよいわけで、壁も屋根と同じような状態になるのである。
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